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速水研究室
Hayami Group      

研究室所属学生の主な研究成果

奇パリティ多極子秩序下でのNMR・NQRスペクトルの理論

固体中における空間反転対称性の破れは,電気磁気効果などの交差相関応答や非相反な輸送特性などの多彩な物理現象を引き起こすことから近年精力的に研究が行われています. こうした空間反転対称性の破れを伴う電子系の秩序状態は,磁気トロイダル双極子や磁気四極子のような「奇パリティ多極子」によって表現できます. これら奇パリティ多極子を直接観測するために,第二次高調波発生やX線共鳴散乱などの実験手法が従来用いられてきました.

本研究ではこうした従来の測定手法とは異なる,NMR/NQR測定を用いた奇パリティ多極子の微視的観測の可能性について調べました. 対象としては,奇パリティ多極子秩序を示す候補物質であるf電子化合物CeCoSiを取り上げました. CeCoSiでは,Ceのf電子が交替的に秩序化した反強磁性状態と反強四極子状態の存在が示唆されていますが,これらは奇パリティ多極子の観点からはそれぞれ磁気トロイダル双極子および電気トロイダル四極子とみなすことができます. そこで、これらの奇パリティ多極子秩序状態がNMR/NQR測定を通じてどのように観測されるのかを理論模型を用いて調べました. 59Coサイトの核スピン・四極子とCeサイトのf電子が形成する多極子の間に生じる有効的な超微細結合を、それぞれの秩序状態に対して導出することで,奇パリティ多極子の発現とそれに伴う共鳴スペクトルピークの分裂の対応関係を明らかにしました. さらに,その他の奇パリティ秩序変数候補に対しても同様の解析を系統的に行うことで,多様な磁場方向に対するNMR測定を通じて奇パリティ多極子秩序変数を同定できることを示しました.

M. Yatsushiro and S. Hayami, Phys. Rev. B 102, 195147 (2020)

拡張多極子に基づいたスピン軌道相互作用に頼らないスピン分裂バンド構造の微視的理論

スピン軌道相互作用は,電気磁気効果や異常ホール効果といった様々な物性現象の起源となることから,近年の物性物理学における重要な要素の一つです. こうしたスピン軌道相互作用は,固体中における電子の相対論的な運動に起因したものであるため,その大きさは元素によってある程度決まっており,特に原子番号の大きな元素ほど大きくなる傾向があります. 一方で最近の研究により,ある種の反強磁性構造が発現した際には,こうしたスピン軌道相互作用がなくとも,スピン軌道相互作用がもたらす物性現象(例えば,バンド構造におけるスピン分裂)と同様な現象が得られることが理論的に明らかにされてきました.

本研究では,こうした反強磁性秩序の発現によってもたらされる創発スピン軌道物性が生じるための条件を明らかにし,さらにはミクロな電子自由度に基づいた理論物質設計へとつなげていくために,これらの起源を包括的に明らかにする基本的枠組みの構築を試みました. その際に拡張多極子というミクロな電子自由度を統一的に表現できる新しい概念を用いることで,バンド構造におけるスピン分裂が生じるための微視的な模型パラメタの条件を明らかにすることに成功しました. 本研究成果により,共線・非共線・非共面的な磁気構造を有するあらゆる磁気秩序状態に対して,スピン分裂バンドを誘起するための模型パラメタが明らかになったため,物質探索の幅が従来の枠を大きく超えたものになることが期待されます.

S. Hayami, Y. Yanagi, and H. Kusunose, Phys. Rev. B 101, 220403(R) (2020),
S. Hayami, Y. Yanagi, and H. Kusunose, Phys. Rev. B 102, 144441 (2020)

異方的なボンド相互作用による非相反マグノン励起

空間反転対称性のない磁性体が示す波数に非対称なマグノン励起は,非相反方向二色性などの様々な興味深い現象を引き起こすことから注目を集めています. こうした非対称マグノンの微視的機構としては,スピン軌道相互作用に由来したジャロシンスキー・守谷相互作用によるものとフラストレート相互作用に由来したベクトルスピンカイラリティによるものに限られており,物質探索の幅が狭まっていました.

我々は非相反マグノン励起の新しい機構を探索する目的で,格子構造に由来した磁気的な異方性の役割に注目しました. 具体的にはハニカム構造上の交替的な反強磁性秩序状態に対して,線形スピン波近似を用いた解析を行うことで,ボンド上にはたらく対称な異方的交換相互作用が非相反マグノン励起の微視的起源となることを,理論的に明らかにしました. さらに,面内方向の外部磁場を印加することにより,マグノンの非相反方向が磁場によって制御できることを示しました.

T. Matsumoto and S. Hayami, Phys. Rev. B 101, 224419 (2020)

強いスピン-電荷結合をもつd-p軌道混成自由度が創出するカイラルストライプ相

遷移金属酸化物は,電子がもつ電荷・スピン・軌道といった電子自由度間の協奏・競合が生じるため,従来とは異なる巨大磁気抵抗効果やマルチフェロイクスといった多彩な物性現象を研究する舞台となります. 例えば,3d遷移金属酸化物の一つであるSrFeO3では,スピン軌道相互作用の影響が小さいと考えられているにも関わらず,複数のらせん構造を重ね合わせた二重Q磁気秩序あるいは四重Q磁気秩序といった多重Q磁気秩序が発現しており,それに伴う巨大なトポロジカルホール効果が観測されています. 一方で,こうしたスピン軌道相互作用の小さな系では,磁性イオンにおける遍歴電子スピンと局在スピン間に働くスピン-電荷結合が,多重Q磁気秩序の発現において重要な役割を果たすことが理論的に示されていますが,これまでの研究では主にそのスピン-電荷結合定数の大きさが伝導電子のバンド幅に比べて十分に小さい場合に限られており, SrFeO3のような強いスピン-電荷結合を有する強結合領域において,多重Q磁気秩序が生じるかどうかは未解明なままでした.

そこで本研究では,強いスピン-電荷結合をもつ強相関電子系において,多重Q磁気秩序が生じる可能性を理論模型を用いて調べました. ここではSrFeO3のような遷移金属酸化物を念頭に置き,強いフント結合をもつ磁性イオンのd軌道と配位子である酸素のp軌道からなるd-p模型を考え,変分計算を用いて基底状態の探索を行うことにより,直交する2つのらせんで特徴づけられる二重Q磁気秩序相の一つであるカイラルストライプ相が広いパラメタ範囲において基底状態として安定化することを見出しました. さらに,その安定化領域はd軌道とp軌道のエネルギー差を表す電荷移動エネルギーに強く影響されることを明らかにしました.

R. Yambe and S. Hayami, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 013702 (2020)

f電子系化合物CeCoSiに潜むクラスター奇パリティ多極子秩序

f電子系化合物のCeCoSiは,正方晶系の結晶構造(P4/nmm)を有し,常圧下においては10Kで反強磁性転移を起こし,また高圧下では,新たな圧力誘起相が現れることが観測されています. ここでの圧力誘起相における秩序変数は,転移温度近傍における物理量の振る舞いから,Ceサイトにおける擬四重縮退した軌道内における多極子自由度が反強的に秩序化している可能性が指摘されていますが,未だその同定には至っていませんでした. 一方で,こうした交替的な多極子秩序のもとでは,結晶構造における空間反転対称性が無くなるため,奇パリティ多極子が誘起され,それに伴い電気磁気効果や電場(流)誘起歪みなどの交差相関現象が生じます. すなわち,CeCoSiで観測された電子秩序相においても,奇パリティ多極子秩序に由来する交差相関現象の発現が期待されますが,擬四重縮退した結晶場基底や反転中心が破れた際に生じるパリティ混成の影響を取り込んだ微視的な計算は,電子系における様々な自由度間の相関効果を同時に取り込んで解析する必要があるため,未だに行われていないのが現状でした.

本研究では,微視的な模型計算の立場から,CeCoSiで観測された電子秩序相を説明するための奇パリティ多極子秩序パラメタの候補を提案しました. そのために,Ceサイトにおける局所的な空間反転対称性の破れやスピン軌道相互作用,d-f軌道混成といった複合的な効果を取り込んだ有効模型を構築し,その模型に対する理論解析を行いました. その結果,擬縮退した多軌道基底において交替的な反強磁性秩序が生じると,奇パリティ多極子の一つである磁気四極子が誘起されること,また交替的な反強電気四極子秩序が生じると,奇パリティ多極子の一つである電気トロイダル四極子が誘起されることを明らかにしました. これらの交替的な反強磁性秩序や反強四極子秩序は,CeCoSiで観測された常圧下における反強磁性秩序および圧力下における圧力誘起相にそれぞれ対応している可能性があるため,奇パリティ多極子特有の電流誘起磁化や電流誘起歪みを観測することによる奇パリティ多極子の観測が期待されます.

M. Yatsushiro and S. Hayami, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 013703 (2020)

コリニアな磁気秩序のもとで生じるスピン分裂バンド構造

電子がもつ軌道自由度とスピン自由度を結びつけるスピン軌道相互作用は,特異なトポロジカルな性質や電気磁気効果を始めとするマルチフェロイクス現象のミクロな起源となることから,近年精力的に研究が行われています. とりわけ,空間反転対称性が破れた結晶系においては,結晶構造を反映した非対称なポテンシャル勾配の向きに依存する有効磁場が電子スピンと結合することにより,スピン流生成やスピンホール効果といったスピン伝導現象が生じることが知られています. こうしたスピンに依存した伝導現象は,ミクロな電子自由度の立場からは波数空間における電子の運動量とスピンの結合による反対称スピン軌道相互作用の影響として理解されています. 一方で近年,結晶がもつ回転対称性や鏡映対称性の自発的な破れにより創発されるスピン軌道物性が注目を集めています. こうした創発的スピン軌道物性は,(1) 反強磁性体秩序の発現に伴う,(2) スピン軌道相互作用を必ずしも必要としない,という特徴をもつことから,スピン軌道相互作用の影響が小さいと考えられる有機導体や3d遷移金属酸化物においても活性化し,スピン伝導に重要な役割を果たすことが期待されています. 実際に反強磁性秩序を示す有機導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clにおいて,グライド対称性の破れを通じて,波数空間に対称なスピン分裂が生じ,それに伴ってスピン流が生成されることが近年明らかにされています. 一方で,こうした創発的なスピン軌道物性が生じるために必要な電子自由度や結晶構造などの条件は未解明なままでした.

我々は,スピン軌道相互作用のないコリニアな反強磁性秩序を対象とし,どのような格子構造および微視的な模型パラメタの下で,スピン分裂を示すバンド構造やスピン流生成といった創発スピン軌道物性が生じるかを理論的に調べました. その結果,ミクロな多極子の表現論を用いることにより,反強磁性クラスター構造とクラスター間のボンド自由度間に働く有効スピン軌道結合がスピン軌道相互作用と同様な影響をもたらすことを明らかにしました. また,有効スピン軌道相互作用の表式をミクロな多極子の立場から導出することにより,波数空間に関して対称なスピン分裂が生じること,およびそれらが生じるために必要な格子構造およびホッピングパラメタの条件を見出しました. さらに,スピン分裂のもとで期待されるスピン流生成や磁気弾性効果といった物性現象を32の結晶点群に対して系統的に解析しました.

S. Hayami, Y. Yanagi, and H. Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 123702 (2019)

スピン軌道結合金属Cd2Re2O7における電気トロイダル四極子秩序

結晶構造における空間反転対称性の有無は,系の物性を特徴づける上で重要な要素のひとつです. その中でも,空間反転対称性が破れた系におけるスピン軌道相互作用は,マルチフェロイクスやスピンホール効果など,多くの興味深い現象を引き起こす原因と考えられ,精力的に研究が行われています. 最近,こうした空間反転対称性の破れに付随した現象を,「奇パリティ多極子」の概念を用いて理解しようとする試みが行われています. 例えば,時間反転対称性をもつ系においては,空間反転対称性の破れを特徴づける奇パリティ多極子として,奇数次ランクの電気多極子(双極子,八極子,…),もしくは偶数次ランクの電気トロイダル多極子(単極子,四極子,…)が挙げられます. 特に低次ランクである電気双極子や,電気トロイダル単極子・四極子といった奇パリティ多極子モーメントの自発的な秩序形成は,バンド構造における反対称スピン分裂や線形電流磁気効果の源となるため,その発現機構を理解することは重要な課題です. 一方で,こうした奇パリティ多極子秩序が,どのような物質で実現し,どのようにして実験で観測するかといった点に関する研究はまだ端緒についたばかりです.

ここでは,奇パリティ多極子秩序の可能性が実験的に示唆されている5d電子系パイロクロア化合物Cd2Re2O7を対象とし,実験で観測された約200Kと120Kにおける2つの構造相転移が,奇パリティ多極子の一つである電気トロイダル四極子の秩序形成により引き起こされている可能性を理論的に明らかにしました. 特に,スピン軌道相互作用の効果を取り込んだ強束縛模型を拡張多極子の概念を用いて解析することにより,正四面体ユニットに内包された電気トロイダル四極子に対応する秩序変数の微視的な表式を導出しました. また,こうした電気トロイダル四極子自由度が秩序化することにより,運動量空間において波数に依存したスピン分裂バンド構造が生じること,それに伴う電流誘起磁気効果や非相反伝導現象が生じることを明らかにしました.

S. Hayami, Y. Yanagi, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 122, 147602 (2019)

固体中における多極子の分類論

多極子は固体中の1原子上の異方的な電荷分布や磁荷分布を表すのに用いられており,電子が強く局在化しているf電子系を中心に研究が進展してきました.そこでは,単純な磁気双極子(スピン)秩序だけでなく,原子に局在した電気四極子や磁気八極子といった非自明な電子自由度が現れ,新しい自発的な秩序や揺らぎをもたらすことが知られています.一方近年では,f電子系のみならず,様々な系における電子自由度を多極子の観点から理解しようとする試みがされています. こうした従来の多極子概念の拡張は,トロイダル多極子や奇パリティ多極子といった更なる非従来型多極子の記述を可能とするため,それに伴う新規物性が期待されています.

本研究において我々は,32の結晶点群の元で活性化する多極子自由度とそれらがもたらす物性を網羅的に調べ上げました. まず,実空間および波数空間における多極子の微視的枠組みを構築することにより,4つの多極子(電気多極子,磁気多極子,磁気トロイダル多極子,電気トロイダル多極子)がどのような結晶点群や電子の基底関数において活性となるかを明らかにしました. さらに,電子状態におけるバンド構造の変形や,電気磁気効果や磁気弾性効果における応答テンソルの性質を多極子の視点からまとめました. こうした多極子による電子自由度の一般的記述は,輸送現象や励起構造,交差相関現象を統一的に理解・予測する上で有益な情報を与えるだけでなく,電場,電流,スピン流,磁場,弾性場,熱流といった種々多様な外場応答に対するさらなる交差相関現象を示す新規物質の探索に指針をもたらすことが期待されます.

S. Hayami, M. Yatsushiro, Y. Yanagi, and H. Kusunose, Phys. Rev. B 98, 165110 (2018) [selected in Editors' Suggestion]

スピン軌道結合金属におけるNeel/Bloch型スキルミオン

本研究において我々は,スピン軌道相互作用を有する遍歴磁性体模型においてどのような多重Q磁気秩序相が発現するかを詳細に調べました. 具体的には,正方格子上におけるラッシュバスピン軌道相互作用をもつ近藤格子模型において,局在スピンと遍歴電子スピン間に働く交換相互作用に関する摂動展開を行い,局在スピン間に生じる有効交換相互作用を導出することにより,有効スピン模型を構築しました. 得られた模型に対して,モンテカルロ・シミュレーションという数値計算を行うことにより,どのような磁気秩序相が生じ得るかを系統的に調べ上げました. その結果,波数空間における異方的で対称的な交換相互作用および反対称的な交換相互作用が様々な多重Q磁気秩序相の発現に重要な役割を果たしていることを明らかにしました. 特に,ラッシュバスピン軌道相互作用を有する磁性体模型において,従来のNeel型スキルミオンが現れるだけではなく,Bloch型スキルミオンが発現する可能性を理論計算の立場から提案しました.

S. Hayami and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 121, 137202 (2018) [selected as Cover image]
S. Hayami and Y. Motome, IEEE Transactions on Magnetics 55, 0018-9464 (2018)

トロイダル多極子に対する量子力学的演算子の定式化

固体中における電子は結晶場やスピン軌道相互作用といった様々な要因により,異方的な電荷分布や磁荷分布を示します.このような異方性は多極子によって特徴づけられ,系の電気的・磁気的応答や輸送現象を対称性や微視的な観点から理解する上で役に立ちます. 一般に多極子は空間反転対称性および時間反転対称性の有無に応じて電気多極子,磁気多極子,磁気トロイダル多極子,電気トロイダル多極子の4種類に分類されますが,これらの中でも2つのトロイダル多極子が原子サイトに"局所的"に誘起される可能性についてはほとんど議論されていませんでした.

我々は,電磁気的なスカラー・ベクトルポテンシャルに関する多極子展開を行うことにより,トロイダル多極子の量子力学的演算子表現を導出しました. また,これらの磁気・電気トロイダル多極子が局所パリティ混成系において活性となることを示し,それらが秩序化した際に生じる交差相関現象を明らかにしました.

S. Hayami and H. Kusunose, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 033709 (2018)

遍歴磁性体における非共面磁気構造の安定化起源の解明

非共線的あるいは非共面的な磁気秩序は,トポロジカルに非自明な状態や新しい低エネルギー励起をしばしば生み出すことから物性物理学における興味深いテーマの一つとなっています.こうした磁気構造を安定化させる新たな候補物質の一つして,局在スピンと遍歴電子からなる遍歴磁性体が注目されています. 近年,スピン軌道相互作用が弱い遍歴磁性体においても,スキルミオン結晶相を含む様々な非共面的な磁気秩序相が格子構造に依らず見出されています.これらの結果から,遍歴磁性体には非共面的な磁気構造を誘起する機構が内在していることが示唆されますが,電子の遍歴性に由来して現れる有効相互作用が多種多様であるため,本質的なメカニズムに対する統一的な理解は未解明なままでした.

本研究では,遍歴磁性体に現れる非共面的な磁気不安定性の起源を統一的に理解するために,遍歴電子に由来した有効交換相互作用の性質を調べました. 具体的には,近藤格子模型において,局在スピンと遍歴電子スピン間にはたらく交換相互作用に関する摂動展開を高次まで系統的に行うことにより,局在スピン間に生じる有効交換相互作用を導出しました. その結果,波数空間における双二次交換相互作用が非共面的な磁気秩序の発現に本質的な役割を果たしていることを見出しました,また,これまでに報告されていた種々の特異な磁気構造が我々の提案した有効スピン模型によって説明可能であることを明らかにしました.

S. Hayami, R. Ozawa, and Y. Motome, Phys. Rev. B 95, 224424 (2017), erratum [selected in Kaleidoscopes]
R. Ozawa, S. Hayami, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 118, 147205 (2017)
R. Ozawa, S. Hayami, K. Barros, G. W. Chern, Y. Motome, and C. D. Batista, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 103703 (2016)
S. Hayami and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 060402(R) (2014)

フラストレート磁性体におけるスキルミオン結晶相

トポロジカルに非自明な磁気構造として特徴づけられる磁気スキルミオンは,2009年に空間反転対称性をもたないB20系合金で観測されて以降,トポロジカルホール効果や電気磁気効果といった多くの興味深い物性現象を通じて盛んに研究されてきました. これらのスキルミオンの発現には,空間反転対称性が破れた系の下でのスピン軌道相互作用に由来したジャロシンスキー・守谷相互作用が重要な役割を担っていることが知られています. 一方で,フラストレートした相互作用をもつ磁性体においても,しばしば非共線的あるいは非共面的な磁気構造をもつ秩序状態が実現することが知られており,最近になってフラストレート磁性体におけるスキルミオン結晶相が理論的に提案されるなど精力的に研究が行われてきています.

我々は,こうしたフラストレート磁性体におけるスキルミオン結晶相の安定性を明らかにするために,磁気的な容易軸異方性を取り込んだ三角格子上の古典ハイゼンベルグ模型に対する解析を行いました. 解析計算,変分計算およびモンテカルロ計算を相補的に用いることにより,基底状態から有限温度にわたってスキルミオン相の安定性を調べた結果,フラストレート磁性体においてスキルミオン相が発現するための 3つの要素, (1)格子の6回回転対称性,(2)フラストレート相互作用に由来した有限の波数をもつ秩序ベクトル,(3)容易軸異方性,を明らかにしました.

S. Hayami, S.-Z. Lin, and C. D. Batista, Phys. Rev. B 93, 184413 (2016)
C. D. Batista, S.-Z. Lin, S. Hayami, and Y. Kamiya, Rep. Prog. Phys. 79, 084504 (2016)
S.-Z. Lin and S. Hayami, Phys. Rev. B 93, 064430 (2016)

隠れた反対称スピン軌道相互作用が引き起こす非従来型多極子秩序と非対角応答

空間反転対称性が破れた系におけるスピン軌道相互作用は,非従来型の超伝導やマルチフェロイクスなど,多くの興味深い現象を引き起こすことから,精力的な研究対象となっています.ここで鍵となるのは,空間反転対称性の破れのもとで生じる反対称スピン軌道相互作用です.近年,反対称スピン軌道相互作用の発現には,必ずしも系の大域的な空間反転対称性の破れは必要ではなく,原子サイトにおける局所的な反転対称性の破れに伴う局所的なパリティ混成が本質的であることが指摘されました.

そこで我々は,こうした局所的なパリティ混成がもたらす物理のうち,特に遍歴電子系に現れる新奇な量子現象に着目した研究を行いました.その結果,従来は絶縁体において議論されていたトロイダル秩序が金属においても実現し,新奇な磁気伝導や電気磁気効果を誘起することを明らかにしました.また,電荷・スピン・軌道秩序による自発的な空間反転対称性の破れが,サイトに依存する形で隠れていた局所的な反対称スピン軌道相互作用を活性化し,スピン分裂を伴うバンド構造の変化や電気磁気効果をもたらすことを明らかにしました.本研究は,局所的なパリティ混成による新しい電子秩序相とそれに伴う輸送・応答現象の先駆けとなるものです.

S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 97, 024414 (2018)
Y. Yanagi, S. Hayami, and H. Kusunose, Phys. Rev. B 97, 020404 (2018)
Y. Yanagi, S. Hayami, and H. Kusunose, Physica B: Condensed Matter 536, 107-110 (2018)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Physica B: Condensed Matter 536, 649-653 (2018)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys.: Condens. Matter 28, 395601 (2016)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 053705 (2016)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 592, 012101 (2015)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 592, 012131 (2015)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 84, 064717 (2015)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 081115(R) (2014)
S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 024432 (2014) [selected in Editors' Suggestion]

遍歴電子系におけるディラック電子を伴う多重Q磁気秩序

異なる波数をもつ複数の秩序の重ね合わせで構成される多重Q磁気秩序は,しばしば非共面的な磁気構造を示すとともに,トポロジカルに非自明な状態や新しい低エネルギー励起を生み出すことから注目を集めています.我々は,幾何学的なフラストレーションによらない多重Q磁気秩序の発現可能性を調べる目的で,立方格子上の非共面的な磁気構造を理論的に調べました. その結果,立方格子上では,三重Q磁気秩序が三次元ディラック型の線形分散をもたらすことを見出しました. 同時に,ギャップレスな表面状態が現れること,外部磁場のもとでワイル半金属が現れること,適当な摂動のもとでトポロジカル絶縁体が得られることを明らかにしました.さらに,この三重Q秩序が,近藤格子モデルや周期的アンダーソンモデルといった遍歴電子モデルで安定に現れることを示しました.これらの結果は,この非共面的な磁気構造の実現には,幾何学的フラストレーションというよりも,むしろ電子の遍歴性が重要な役割を果たしていることを意味しています.

S. Hayami, T. Misawa, Y. Yamaji, and Y. Motome, Phys. Rev. B 89, 085124 (2014)

立方格子上の近藤系が示す電荷秩序

局在電子と遍歴電子が相互作用する近藤系では,遍歴電子の運動に起因した局在スピン間の有効相互作用であるRKKY相互作用と,局在電子と遍歴電子の間に働く近藤カップリングの競合によって,磁気秩序状態や重い電子挙動を示す常磁性状態などの様々な状態が現れることが知られています. 本研究では,これらの多種多様な状態のうち,電荷秩序状態が発現する可能性に着目しました. 近藤系における電荷秩序の可能性は,過去に数多くの研究がされてきたが,電荷秩序の発現機構や3次元系における発現可能性,磁気秩序との関連性など,未解決な問題が数多く残されていました.

そこで我々は,近藤系の基本的なモデルの一つである周期的アンダーソンモデルを採用し,パラメタを系統的に制御することで3次元系における電荷秩序状態の発現可能性,磁気秩序との関連性を調べました. その結果,波数(π,π,π)をもつ電荷秩序が基底状態相図の広いパラメタ領域で発現することを明らかにしました. さらに,3次元立方格子における電荷秩序相は有効的に磁気的なフラストレーションを誘起し,電荷秩序と非共面的な磁気秩序が共存した状態が実現することを見出しました.

S. Hayami, T. Misawa, and Y. Motome, JPS Conf. Proc. 3, 016016 (2014)

近藤系が示す部分無秩序

近藤格子系における量子臨界点近傍に生じる新奇な量子状態の一つとして,幾何学的フラストレーションのもとで現れる部分無秩序状態が挙げられます. 部分無秩序状態とは,磁気秩序を形成して有限の磁気モーメントを保持するサイトと近藤一重項を形成して磁気モーメントが消失するサイトが, フラストレーションを解消するように空間的に共存する特殊な磁気秩序状態です.

我々は,三角格子上の周期的アンダーソンモデルの基底状態を平均場近似を用いて解析し,部分無秩序状態の性質を調べました. その結果,ハーフフィリングと他のコメンシュレートフィリングで,異なる特徴を持つ2種類の絶縁体的な部分無秩序状態を見出しました. 両者の共通の性質として,どちらも電荷秩序を伴っており,電荷の自由度が部分無秩序状態の安定化機構に重要な役割を果たしています. また,非磁性サイトを中心とする電子波動関数の空間的な広がり方に定性的な違いが見られ,ハーフフィリングの電子密度で生じる部分無秩序状態においては, その空間構造の違いが状態密度に鋭いピーク構造をもたらすことを見出しました. 一方で,他のコメンシュレートなフィリングにおける部分無秩序状態にホールドーピングをすることによって, これまでに得られていなかった金属的な部分無秩序状態が発現することを明らかにしました.

S. Hayami, M. Udagawa, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 81,103707 (2012)
S. Hayami, M. Udagawa, and Y. Motome, J. Phys.: Conf. Ser. 400, 032018 (2012)
S. Hayami, M. Udagawa, and Y. Motome, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 073704 (2011)